2025/8/22 ふたりとも仮釈放を却下されました。次の仮釈放委員会は18ヶ月~3年後です
2025/7/13 仮釈放とは別に再審請求も通るかもしれない?っぽい状況になりました
2025/5/13 ふたりとも減刑され、仮釈放の有資格者になりました
※拙著「メネンデスブラザーズ事件」最終章とその補足を掲載しています。
釈放を巡る法手続きは2025年8月の今も何かと進行中です。
ここはその詳細とアップデートをお伝えするページです。
最後の更新は、2025年8月31日です。
Contents
釈放を巡る出来事全部
人身保護請求
兄弟の現在の弁護士マーク・ガラゴスは2023年5月、アンディー宛ての手紙とロイの宣誓供述書を合わせて裁判所に提出し、兄弟の人身保護を請求した。
人身保護を求めるとは、人権に基づき、個人を不適切な場所から移すよう求めるということであり、端的に言えば釈放を求めたということだ。
もしも裁判でアンディーへの手紙が提示され、ロイが証言していたら、陪審は不完全正当防衛を認めて過失致死と評決した可能性がある。
過失致死ならば刑期は最長で11年、兄弟はふたりを殺害しているので22年になる。
ライルとエリックは2023年時点ですでに33年服役しており、過失致死を償うのに充分な期間が経過している。
だとすれば、ふたりが現在も刑務所に収容されているのは人権侵害にあたるという主張である。
請求が通れば、新たな裁判か公聴会が開かれる。
新証拠を含めて事件を再審査し、決定は判事が下す。結果いかんで即時釈放もありえるが、そこまでの道のりは長い。
2024年10月。兄弟の親族が裁判所前でスピーチし、ふたりの釈放を求めた。
この嘆願には親族24人が連名している。
兄弟の親族とは、殺されたホセとキティーの親族でもある。
被害者の親族が加害者の釈放を求める珍しいケースで、20人を超える規模の連名とはますます珍しく、大きく報道された。
ここから事態は二転三転とする。
再判決の推薦
同じ頃、ロサンジェルス郡検事局長ガスコンが、裁判所にメネンデス兄弟の再判決の推薦状を提出した。
カリフォルニア州の新法によるもので、検事局は、過去のケースの見直しと再判決を裁判所に要請することができる。
ガスコンは、これを使ったのだ。
兄弟の判決は、特殊事情のある第一級殺人であり、その刑罰は死刑か仮釈放なしの終身刑しかない。
裁判所がこれを変更すれば、釈放の可能性が生まれる。
もしも過失致死までダウングレードされた場合には、前述のとおり最長22年の服役となり、即釈放である。
第二級殺人に下がった場合には、最も重い刑は、仮釈放ありの終身刑である。
その場合、仮釈放の資格を得るには50年の服役が必要なのだが、現行法では、受刑者が犯行当時25歳以下だった場合は、25年で仮釈放の資格が得られる。
兄弟はこれに該当する。
ガスコンの開いた再判決ルートによって、兄弟の出所が、かなり現実的になった。
ふたりの出席する公聴会は12月11日に決まり、ガラゴス弁護士は「年内の釈放を目指す」と明言していた。
これほど釈放に近づいたことは、これまでなかった。
24年10月時点で、釈放へのルートは3つあった。
人身保護、再判決、そして恩赦である。
恩赦
メネンデス事件は州犯罪なので、大統領に恩赦の権限はない。
カリフォルニア州知事にその権限がある。
いつでも出せるものだが、11月のサンクスギビング・デーに発布されることが多い。
ふたりは恩赦の嘆願も提出していたが、2024年秋の恩赦は見送られた。
このルートは塞がり、人身保護と再判決のふたつが残された。
新検事局長ホックマンと山火事
2024年11月の大統領選に並行してロサンジェルス郡検事局長の選挙も行われた。
そこでガスコンは再選を逃し、ホックマン新検事局長が誕生する。
就任したホックマンが、「メネンデス兄弟の再判決の推薦を見直す」と発言し、風向きが変わった。
ガスコンの推薦状はすでに提出されており、局長が替わっても有効である。
でも新局長には、正当な理由があればそれを取り下げる権利がある。
これを受け、裁判所は公聴会を1月末に延期した。
2024年末、兄弟の釈放を支持していた検事2名が、配属を変更された。
ふたりの検事はこの異動を不当としてホックマンを告訴している。
2025年1月、親族の中でひとりだけ釈放に反対しているキティーの兄、ミルトン・アンダーセンの弁護士ケイディーが、ロス検事局の被害者サービス局長に任命された。
ケイディーは、ホックマンの選挙選を支援していて、寄付もしている人物だった。
2025年1月、ロスで大規模な山火事が発生し、その影響で公聴会が再び延期された。
新日程は、3月20日、21日である。
2025年2月22日、新検事局長ホックマンが突然の会見を開き、裁判所に「人身保護申請は却下するのが妥当である」と通知したと報告した。
弁護側が提出しているふたつの新証拠は、再審の要件を満たしていないというのが理由だった。
アンディーの手紙については、封筒が添付されておらず、消印が確認できないことや、受取人のアンディーが死亡しているため確かめる方法もないことが挙げられ、原本でなくコピーであることも信頼性を損ねると述べた。
また、手紙は2015年に報道番組で取り上げられたことがあり、人身保護申請の2023年までに8年が経過していることになる。
再審を求める新証拠は、発見後速やかに提出されたものであるのが原則である。
ホックマンは、8年の遅延は承服しかねるとも強調した。
次にロイ・ロセーロ証言だが、ホックマンは、ロイがホセにレイプされたとしても、それは事件とは無関係と考えている。
「事件のあった1989年には、兄弟はロイに起きたことを知らなかったのだから、もしも本当のことだったとしても、ふたりは何の影響も受けていない」
これがロス検事局長の見解だった。
会見の終わりに記者のひとりが「性的虐待を信じないのですか?」と質問した。
ホックマンの答は、「信じるには証拠が足りない」だった。
事実上、人身保護の道はなくなった。
恩赦再び
残るは再判決のみかと思われたその3日後、また思いもよらないことが起きる。
カリフォルニア州知事ニューサムが、「ふたりの刑務所内での記録を確認する」と発表したのだ。
人身保護と再判決が進行していた2024年末には恩赦を見送ったニューサムが、状況の変化を見て恩赦の検討に入ったのだった。
ニューサムは、2028年の大統領選に民主党から立候補する可能性が高いと言われている。
だとすれば、今気にかけているのはカリフォルニア州内ではなく全米での評判のほうだ。
恩赦を出せば反釈放派の怒りを買い、出さなければ兄弟を支持する人々を落胆させる。
難しい立場に自ら乗り出した意図はまだ分からない。
ともかく、塞がれていた恩赦ルートがまた開け、釈放への道は、再判決と恩赦の二本になった。
再判決公聴会の延期に次ぐ延期
2025年3月5日
月の下旬に予定されていた再判決の公聴会が4月に延期されると発表された。
3月10日、ホックマンが再び会見を開き、裁判所に対し、ふたりの再判決を却下するよう要請したと発表した。
ライルとエリックは、多くの嘘をつき、それを認めていないので、依然として社会の脅威なのだそうだ。
今にも「性的虐待が嘘だと認めれば出してやる」と言いだしそうな雰囲気だったが、今回は違った。
彼は16項目を挙げ、ふたりがこれらを認めれば再判決を検討してやると言う。
リストにはすでに法廷で認めていることや、検察側証人の嘘としか思えないことが並んでいる。
ホックマンがなぜこの的外れなリストを出したのか不明である。しかし意義はあった。
16項目の中には、プールメンテナンスのグラント・ウォーカーの証言が含まれる。
事件の前日、ライルとエリックは外出していたと話す時刻に、屋敷でふたりを見たと言うあの話である。
確かに、ライルもエリックも認めていない。
ウォーカーは、法廷で反対尋問され、その話がいかに信用できないものであるかを晒されている。
ホックマンはそれを持ち出し、「認めろ」と言う。
なぜ嘘に合わせなければならないのかと、改めて16のリストを見ると、認めていないことのすべてが入っているわけではないことに気づく。
ジェイミーの法廷証言も入っていないのだ。
検察は、ライルのかつての婚約者ジェイミーに、エリックが事件のずっと前からカツラのことを知っていたことや、ライルの依頼で虐待された子が親を殺した事例の資料を差し入れたことを証言させたが、反対尋問で矛盾を突かれ、彼女の証言がおおいに疑わしいものだと暴かれた。
もちろんライルもエリックも、ジェイミーの言う通りでしたとは言っていない。
なぜウォーカーの話は認めろと迫り、ジェイミーの話は伏せるのだろう。
ふたりには明確に異なる点がある。
ウォーカーは、自分から警察に話を持ち込んだが、ジェイミーは、検察のボザニッチに頼まれて証言したという点である。
偽証をした証人が「実はあの時嘘を言いました」と懺悔する可能性はゼロではない。
証人らは全員高齢になっており、死の床の告白すらありえる。
そこで、ウォーカーのように、自らネタ話をぶら下げてやって来た証人ならば、白状されても警察や検察の傷は浅い。
でも、もしも「ボザニッチに言われてゾーラー刑事の作った話をしました」と言われたらどうだろう。
30年という時間は心変わりに充分である。
関わったのがゾーラーだけなら、まだ何とかなる。
ゾーラーはもう死んでいるからだ。
しかしボザニッチとクリヤマはまだ死んでいない。
現行のロス検事局としても、90年代に行われていた不正の責任を死者に押し付けるという技は、まだ使えないのだ。
お分かりいただけただろうか。
ホックマンの意味不明な16項目の選定によって、メネンデス法廷で披露された検察側の証人の証言のうち、警察と検察が主導した嘘はどれだったのかが浮かび上がったということである。
2審で突然変わったバーマン証言、当初は9月2日の朝メネンデス邸は無人だったと話していたはずが、ゾーラーの聴取を受けた後の法廷では、エリックが寝室でバスローブ姿の男と一緒にいたと証言したローデンの件なども、兄弟の話と食い違っていながらリストされてはいない。
兄弟の親族の弁護士は、この再判決却下要請をホックマンの嘘と偏見に基づく不当なものであると主張する文書を裁判所に提出した。
ホックマンが前検事局長の推薦を破棄するよう要請したため、裁判所は改めて再判決の審理を進めるか停止するかを決定しなければならなくなった。
2025年4月11日、そのための公聴会が開かれた。検察はガスコンの推薦の無効化を求めて、事件の話をえんえんと語る。
3時間のプレゼンテーション後、判事のジェシックは、その場で破棄要請を退けると決定した。
既に受理されている推薦を取り消させることができるのは、推薦に法的な不備や不正があった場合だけである。
検事局は事件を彼らの好みのストーリーで語っただけであり、推薦を破棄すべき理由は提示していない。
ジェシック判事の決定により、再判決ルートがまだ残されていることが明確になった。
公聴会は4月17日、18日に行われることとなった。
ところが…
2日間をあてられていた公聴会は、半日で切り上げられた。
4月17日、検察側が判事に、ふたりのリスクアセスメントを読んでほしいと主張したためだ。
リスクアセスメントは、州知事の指揮のもとに行われたもので、恩赦のためのものである。
一方この公聴会は、再判決審理の一環である。
別の話であるだけでなく、公聴会の関係者がリスクアセスメントの内容を知っているのはおかしいのだが、検察は閲覧済みだった。
ニューサムのリスクアセスメント実行委員の中に、ホックマンの部下でメネンデス再判決に関わる人物がいたために起きた事態だった。
弁護側は未閲覧の資料を再判決に持ち込まれるのを容認できず、判事にニューサムとロサンジェルス検事局をこの件から外すよう要求すると宣言した。
これにより、公聴会は中止されたのだった。
弁護チームが望んでいるのは、再判決をロス検事局からカリフォルニア州検事局へ、ロス検事局長ホックマンから州司法長官ボンタへ移管することである。
5月9日の公聴会で、検察側からの再判決差し止め要請と弁護側からのホックマン除外要請の両方が棄却された。
事件の移管の可能性がなくなったため、再判決プロセスに何年もかかる可能性もなくなった。
兄弟の出席する再判決公聴会は、5月13日、14日に予定されている。
再判決公聴会ようやく実現
5月13日、14日に予定されていた再判決公聴会は、予定通り開催された。
兄弟のいとこアナマリアは、親族の苦難を、ダイアンは改めてメネンデス家の過酷な状況を、またいとこのタマラは、ふたりの人間的成長を訴えた。
獄中でふたりと親友関係になったラッパーのX-Raidedも証言台に座り、
「私は刑務所内でギャングのようなことをしていた。ふたりに出会わなかったら今も釈放されず刑務所にいたでしょう」
と話す。
意外な証人も現われた。退官した判事ジョナサン・コルビーだ。
彼は引退後、全米各地の刑務所を訪問してまわっていて、ライルとエリックにも会ったことがあった。
「私がこの件の判事なら、間違いなく減刑するでしょう」
コルビーは、ライルとエリックを見て、凶悪犯罪者は救いようがないという考えを変えたのだと言う。
対する検察側は新たな証拠や証人を出さなかった。
午後、ライルとエリック自身が、過去の自分に対する反省とこれからの人生の目標を話し、公聴会は終了した。
2日間の予定だった公聴会が1日で終わるのは予想外のことだったが、この日のうちにさらに予想外のことが起きた。
ジェシック判事は、その場でふたりの再判決を決定し、量刑が仮釈放なしの終身刑から仮釈放あり(50年の服役後)の終身刑に変更されたのだ。
延期と中断を繰り返してきた釈放への道のりの中で、即日の判決とはまったく衝撃的だった。
どちらにも軽微な違反はあった。しかし刑務所内での貢献と人間的成長はそれを圧倒していた。
ジェシックは、
「彼らは恐ろしい犯罪を犯しました。でも、社会に帰った彼らがまた犯罪に手を染めると考える証拠はありません」
「再判決に際し、刑務官らから何通かの手紙を受け取りました。ふたりが刑務所内で成し遂げたことに驚嘆しています」
と語った。
仮釈放資格を得るまでに50年が必要とされるが、上で説明した通り、ふたりは犯行当時25歳以下だったため、必要期間は25年に短縮される。ふたりはすでに35年服役している。
つまりふたりとも再判決と同時に仮釈放の資格を得た。
実際に釈放されるか否かは、この後の仮釈放審問によって決定される。審問の日程はまだ発表されていない。
カリフォルニアの仮釈放委員会は、全米一厳しいとも言われ、また減刑後最初の申請は棄却されることが多い。
でも仮釈放が見送られる時には、次の仮釈放申請までの期間を提示される。
この期間はケースバイケースで、1年程度のこともあれば10年以上先のこともある。
ともあれ、ライルもエリックも今や仮釈放の有資格者だ。
ふたりはいずれ必ず釈放される。
2025年中の釈放も十分あり得る。
5月15日
州知事ニューサムが恩赦の進行を停止すると発表した。
それと同時に6月13日に予定されていた恩赦のための審問を仮釈放審問の扱いにすることも決定した。
しかしライルもエリックも仮釈放の審問を受ける準備ができていないことから、この日程が8月21日、22日に延期された。
仮釈放審問で重要とされるのは再犯の可能性であり、獄中での生活態度が判断の参考にされる。
ライルには一切の暴力歴がない。
はじめの刑務所では、どんなに殴られても反撃しないので、一時的に別の囚人と離れた棟に収容されたこともある。
顎の骨を砕かれた時でさえ黙って耐えた。
他は、アディダスの靴やライター、CDを隠し持っているのを見つかったことがあるのと、面会に来た獄中結婚の妻とディープに抱き合いすぎていたことが数回あるくらいだ。
でも、近年(2024年3月)に携帯電話の所持を見つかっており、これが意外に不利に働くこともありえなくはない。
エリックは、1997年と2011年の2回、他の受刑者とケンカしている。
また、2006年に面会女性との性的接触を見とがめられたことがある。女性の手がエリックの股のあたりにあり、腕が前後に動いていたというものだ。
アメリカの刑務所のように、ガラスや金網を隔てずに面会できる形式の場合にはよくあることと想像がつくが、問題はその時、女性の娘がその場にいたという点である。
女性とはエリックが獄中結婚した相手なので、その娘は彼の義理の娘である。
この時10歳前後だったはずだ。
この一件は重大な違反とは記録されていないが、子供の面前での性行為とはショッキングである。
その他、タバコの葉を隠し持っていたことや、処方された薬を飲まなかったことなどがあり、2000年代半ば頃までのレコードは綺麗ではない。
99年に面会女性に暴力的なふるまいをしたとの報告もあるが、弁護人はこれを、事実誤認による報告書がどうしたわけか今になってリークされたものと主張している。
正式な違反記録にこの件が残っていないことから、事実誤認との抗弁が認められていた可能性もあり、この違反は真偽不明である。
さらに彼は、アルコールや違法薬物の使用、脱税もしたことがあると自ら告白している。
この20年ほどは大きな違反はなく、最後は2021年の携帯電話不法所持である。
プラスの評価を得られる要素も多い。
ライルは、2024年6月にカリフォルニア大学の社会学学位を取得し、現在は都市計画のマスターコースを履修中である。
受刑者の委員長でもあり、刑務所環境改善による更生プログラムの責任者でもある。
ノルウェーの刑務所を参考にしたもので、「刑務所内の環境が実社会に似通っていたほうが出所後の再犯率が低い」という研究結果に基づいている。
ライルの刑務所改革事業は膨大で、正直なところすべてを把握できているかどうか自信がない。記者のロバート・ランドが、いずれこのプロジェクトに関する本を書きたいと言っているので、それを待っている。
リチャード・J・ドノヴァン矯正施設の中庭は今、大規模改築中である。プログラムのWebページが公開されている。ページ一番上の写真にライルがいる。下にある鳥のイラストはエリックが描いたものだ。
https://www.greenspace-project.com/meet-the-rtb-team/
エリックは、環境改善プログラムの1プロジェクトである壁画チームのリーダーで、刑務所内のホスピスで働き、瞑想のクラスを持って他の囚人を指導している。
2025年6月には、彼も大学を卒業した。
釈放の可能性のない中で意味ある仕事に取り組んだふたりを賞賛する声もあれば、囚人には時間があるのだから、刑務所内の功績はその分を割り引いて評価するべきだという意見もある。
一度目の仮釈放審問
8月21日。
エリックの仮釈放申請は却下された。
審問は、朝の8時45分に始まり、夜の6時42分に終了した。仮釈放委員会は2時間から4時間前後で終わることが多いと聞くが、この日は、休憩を含めて10時間近くかかったことになる。
エリックが刑務所内で荒れていたのは10年以上前のことだったが、コミッショナーはすべての違反行為を追及した。審問が事件前の空き巣の話にまで及んだことを思えば、薬物の使用や脱税など、外の世界でも犯罪とされることが見過ごされるはずもない。
エリックは、刑務所の友人が刺され、レイプされたのを見て身の危険を感じていた。そんな時に刑務所内のギャンググループからの誘いがあったので、保身のために身を寄せたのだと説明した。そこで薬物の受け取りや資金の移動の仕事を割り当てられていたのだという。
時期ははっきりしないが、2013年よりも前のことだ。エリックは結局ギャンググループと決裂し、別の刑務所に移送された。その後2013年に「死ぬ時自分は何を思うのか」と考えはじめ、行いを正すようになった。
「その時には神の仮釈放審問を受けるのでしょう」
審問の終わりに、親族ら総勢11名が釈放を訴えた。11名の中には、癌がステージ4まで進行している伯母のテリーや、エリックが最初に性的虐待を打ち明けたディジー神父、一度目の裁判で弁護側の証人に立ったハート博士らが含まれる。
コミッショナーのバートンは、
「多くの親族のサポートには驚かされます。あなたがどれだけ愛されているかはよく分かりました」
と言う。しかし彼は、これほど多くの親戚がいたのだから、両親を殺す前に彼らの元へ逃げられたはずだと付け加えた。
「ギャンググループの誘いに乗ってしまったことや、ストレスをドラッグで和らげようとしたことは、問題への適切な対処を学べていないように感じさせます。
あなたは親族の考えているような模範囚ではありません。携帯電話は、一般社会から見れば些細なことでしょう。でも刑務所では禁止されています。あなたは今もルールを守れていないのです」
そしてバートンは、
「通常、この違反レベルならば次の仮釈放申請を5年後とするところです」
としながら、次の申請を3年後と決定した。
8月22日。
ライルの仮釈放申請も却下された。
エリックと同様、ライルも大学時代のスピード違反のことまで質問される。
とはいえライルには暴力歴がなく、それほど重大な違反もない。
審問の中でライルは、殴られてもやりかえさなかったのは、祖母のマリアと「もう暴力に頼らない」と約束したからだと話した。
そして問題になるのは、やはり最近の携帯電話の所持だ。
カリフォルニアの受刑者は、通話機能のあるタブレットを使うことができる。なのになぜ携帯で電話していたのだと聞かれ、ライルは「モニタリングされている電話が録音され、タブロイド紙にリークされたことがあった」と答えた。
またライルは、獄中結婚した妻とは数年前に恋愛関係を解消しているが、彼女は今も最大のサポーターでいてくれていると打ち明け、今は3人の女性と手紙をやり取りしていると話した。
この日ライルは、十代前半にキティーからシャワールームやベッドでされたことを「今ではあれが性的虐待だと分かる」と言った。
生活の中でキティーは少しも愛情を見せてくれなかった。でも「その時」には「愛」があった。「母と自分だけの特別な関係」だと信じていた。そして、これを話せば、人々は母親の性的虐待だと取り上げると分かっているので、話したくない。再判決時のリスクアセスメントではこのことを聞かれなかったので、話さなかったのだと説明した。
同じようにライルは、ホセからの性的虐待が止んだ時、父はもう自分を愛していないのかと不安になったとも言った。
コミッショナーのガーランドは、ライルには良い人物でいる時とそうでない時があるように感じられると言う。審問の中では、ライルの刑務所内プロジェクトの件はほとんど話題にならなかったが、コミッショナーはすべての記録を読んでいる。
「今日の申請は却下とします。でもこれで終わりではないのですよ。3年後にまた仮釈放を申請できるものとします。無違反で過ごせば、早期の審問を予約することもできます。もう一度、自分は何者なのか、どんな自分でいたいのかよく考えてください。塀の中でも違うあなたにならないで」
カリフォルニアでは、仮釈放審問のリトライは3年が最短期間である。そして3年の期間を言い渡された受刑者は、12ヶ月を無違反で過ごせば早期審問の予約を願い出ることができる。そこで日程を調整するので、たいていは18ヶ月ほど後に次の審問を受けることになる。(もう少し早く16ヶ月程度のこともある)
18ヶ月後とは2027年2月だ。
その時ライルは59歳、エリックは56歳である。
再審の可能性
2025年8月の今、ふたりにはもうひとつ別の釈放ルートがある。はじめに話した人身保護請求だ。
2023年に提出された請求は長らく焦げついていて、検事局長のホックマンは、裁判所にこの申請を却下するよう求める文書を提出していた。
しかし2025年7月、担当判事のライアンが、ホックマンの要求には法的根拠がないとしてこれを退けた。
この決定は、再審を保証するものではないが、可能性が残っていることは明確になった。
もしも再審が実現し、そこで過失致死にまで減刑されれば、ふたりはすぐに釈放となり、仮釈放のような行動制限が課せられることもない。
もしも裁判所が新証拠に価値を認めなければ、このルートは塞がる。
補足
仮釈放となった場合の補足
仮釈放審問では各受刑者を個別に審査するので、兄弟が揃って出所するとも限らない。
どちらかが釈放され、どちらかは刑務所に残る可能性も理論上はある。
また、仮釈放には様々な行動制限が加えられる。
たとえば、仮釈放者同士の接触は禁止される。
これには特例が認められることがあるので、ふたりはおそらくその申請をするだろう。
終身刑囚の仮釈放なので、さまざまな制限は生涯続くことになるが、一定期間を無違反で過ごすことで少しずつ緩和される見込みはある。
委員会が仮釈放を許可した場合も、すぐに出られるわけではない。
まずその認可を仮釈放委員会の別部門である審査ユニットで審査する。これは120日以内に完了することと定められている。たいてい90日程度かかる。この段階で検事局が仮釈放に反対する書面を提出することもある。
ここを通過すると次は州知事に送られる。州知事が問題なしと判断すれば、正式に承認されるが、差し戻されることもある。知事の差し戻しは30日以内に行われるため、受刑者は30日間知事のアクションを待たなければならない。
つまり仮釈放委員会の日から4、5ヶ月程度は刑務所に留まることになる。